ペイン
痛みの基礎研究
痛みとは、組織の実質的あるいは潜在的な傷害に結びつくか、そのような傷害を表す言葉を使って表現される不快な感覚的、情動的体験であると定義されています。これはつまり、痛みの有無は、組織の損傷の有無に関係なく、その程度は人によってまちまちであるということです。このことこそが、痛いという言葉を発することの出来ない、動物モデルを用いた痛みの基礎研究の大きな壁となっていました。しかし、2001年アメリカ議会における“痛みの10年”宣言から、動物モデルの作製、その疼痛行動評価法の確立に関する研究が多くなされ、痛みの基礎研究は大きな進歩を遂げてきています。
実際の臨床現場において、帯状疱疹後神経痛、幻肢痛、癌性疼痛など、難治性の慢性疼痛の患者は多く、ペインクリニックでも神経ブロックに加えて、抗炎症薬、抗うつ薬、抗痙攣薬、抗不整脈薬、それでも効果が無い場合にはオピオイドを含めた薬物治療が行われています。新しい薬物や投与法によって治療法は進歩していますが、強い薬物には副作用もあり、治療効果としては、まだまだ十分であるとはいえないのが現状であります。
そこで我々の施設では
- ▪炎症性疼痛モデル(フォルマリンモデル、CFAモデル)
- ▪術後痛モデル(ブレナンモデル)
- ▪神経傷害性痛モデル(L5SNLモデル、SNIモデル)
- ▪癌性骨疼痛モデル
- ▪抗癌剤誘発性末梢神経障害モデル
などの痛みの動物モデルを用いて、新たな難治性の痛みの治療法の開発を目指しています。
新規化合物に加えて、既存薬剤を利用(ドラッグリポジショニング)した治療法や、High-Throughput-Screeningシステムの確立に取り組んでいます。非薬物治療の研究として、痛みのバイオマーカー開発、パルス高周波法(Pulsed radiofrequency: PRF)の分子生物学的な作用機序の研究も行っています。
今後の課題としては、これらの治療法の動物での安全性の確立、人への応用において必要となる安全確実なデリバリー方法の確立などがあげられます。まだまだ乗り越えるべき障害は多くありますが、痛みで苦しんでいる多くの患者様に対して、少しでも質の高い、痛みの治療が行える日が、一日でも早く来るように、疼痛研究チーム一丸となって、日夜その開発に努力しております。
Translational Research
一般的にこれまでは大学病院では実験室で実験をすることが研究でありました。しかし、昨今の世界的な潮流は実験で得られた成果を臨床に応用する、または臨床的に得られたデータを研究室で確認するといったTranslational Reserchが一般的となってきています。当科でもこれまでに培ってきた急性臓器不全でのヘム代謝、脳蘇生、痛みに関する研究の知見を臨床にいかすべく、Translational Researchに取り組んでいます。
また新たな試みとして、内科、外科との共同研究によって、遺伝子、バイオマーカーに関するTranslational Researchも始まってきています。今後も診療科の枠を超えた共同研究にどんどん取り組んできたいと考えています。