中央麻酔部
Volume Reduction Surgery の周術期管理
Volume Reduction Surgery の麻酔マニュアル
Volume Reduction Surgery(VRS)とは
術前管理と患者評価
肺気腫とは
術前呼吸管理の留意点
VRSの禁忌
前投薬
術中管理
モニター
手術室の用意
麻酔導入
麻酔維持
一側肺換気
術中呼吸管理
Permissive Hypercapneaの循環系に対する影響
術中循環管理
抜管
術後管理
Volume Reduction Surgery(VRS)とは
肺気種患者では、肺実質の崩壊に伴い肺容積が増大し横隔膜の下降をきたしている。労作時の呼吸困難が著明で、低酸素血症と高炭酸ガス血症ときたす。1995年 J.D. Cooperは横隔膜・肋間筋の換気メカニクスの改善を目的として、肺容量を減少させ良好な手術成績を報告した。
VRSが肺癌手術などと大きく異なる点は、機能の回復すなわち生活の質の改善を目的としており救命手段ではないことである。 VRSの周術期は、圧外傷の発生、人工呼吸による気腫の増悪、術中の換気不全、循環不全、術後呼吸不全、術後早期の理学療法と疼痛対策など多くの生命に関わる問題点を抱えている
5-7)
。したがって、周術期の麻酔管理の主眼は、いかにして麻酔による悪影響を少なくし術後の呼吸機能を改善させ呼吸不全の発生を避けるかである。
VRSの術式
(1) Cooper法:
仰臥位で胸骨正中切開により両側開胸、両肺を連続的に部分肺切除20-30%切除。
牛心膜を使用したステイプラーを用い エアリークを防止。
利点
胸郭への手術侵襲は大きいが、直視下に切除部位が決定でき、切除後のエアリークの部位も確認しやすい。
欠点
創が大きいこと、一部の肺の部位の操作が困難であること、背側の肺門に近い部位が目標の場合は処理が困難で反転時に循環虚脱や虚血をきたしやすい。
(2) 胸腔鏡手術:
片側または両側を側臥位にて手術する。
利点
視野の死角がないこと、創が小さく術後の創感染や骨離解などの術後合併症が少ない。
欠点
手術時間が長くなりやすく、エアリークの部位が確認しにくい。
いずれの方法でも肺自体への手術侵襲は大きく、術後に呼吸機能低下や呼吸系合併症を生じやすいことにかわりはない。
VRSのシェーマ
術前管理と患者評価
肺気腫とは
肺気腫は、「肺胞壁の破壊による、繊維化を伴わない、終末細気管支より末梢の気腔の異常な永久的な拡大をきたしている肺の病態である」と定義され、次第に呼吸困難・呼吸不全をきたす。慢性気管支炎と合わせて、いわゆる慢性閉塞性肺疾患(chronic obstructive pulmonary disease; COPD)に分類される。純粋に肺気腫のみの症例は稀であり、大部分は種々の程度の慢性気管支炎や気管支喘息を合併している。患者は一般に高齢であり、肺の障害は進行性で不可逆的である。
術前呼吸管理の留意点
VRSの適応症例に対し、医師および理学療法士の指導下に約1カ月のリハビリテーションを行った後に手術の適応を再び検討する。
■
呼吸機能評価
深吸気および深呼気時の胸部レントゲン
胸部CT
肺換気および血流シンチグラフィー
呼吸機能検査
安静時動脈血ガス分析
6分間歩行テスト
心プールシンチグラフィー
右心カテーテル検査
■
薬物治療:ステロイドカバー・気管支拡張薬
大半の患者は気管支拡張療法を継続しており、術当日朝も内服薬服用と吸入療法を継続する。ステロイド依存症例や過去に長期連用していた症例ではステロイドカバーを施行する。
■
吸入療法:気管支拡張薬・去痰薬
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肺理学療法
■
運動療法
■
栄養管理
VRSの禁忌
■
肺高血圧症:平均肺動脈圧 > 30 mmHg
■
高炭酸ガス血症:PaCO
2
> 60 mmHg
■
著明な胸膜の癒着、開胸手術後
■
肺以外の臓器不全の合併
■
虚血性心疾患、心不全
■
難治性の気管支喘息、肺炎の合併
前投薬
一般的には不要
不安除去には薬物よりも術前の十分なインタビューが重要であり有効である。VRSは新しい治療法であり、患者は自分に対しどのような処置が施されるのか、非常に強い関心と恐れを抱いている。観血的モニタリングや硬膜外カテーテル挿入、麻酔の手順など懇切丁寧な説明が不可欠であり、手術の前の週と前日に術前回診を行う。
術中管理
モニター
■
ECG
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パルスオキシメーター
■
観血的動脈圧モニター
■
中心静脈圧
■
肺動脈圧カテーテル(Swan-Ganz Catheter)
■
連続的動脈血液ガスモニター(パラトレンド)
術中管理にたいへん有用
橈骨動脈または大腿動脈に血管内電極を挿入し連続的にpH、PaCO
2
、PaO
2
を表示する
ガス分析値のみならずその変化の方向と速さを知ることにより、手術操作の中断や両肺換気のタイミングなどを的確に判断できる
抜管の判断には特に有用である。
■
吸気呼気ガスモニター
■
気道内圧モニター
■
換気量計
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経食道心エコー
手術室の用意
■
通常の肺切除の準備に加え、
●
●
●
人工呼吸器(PB7200:Pressure Control Ventilationのできるもの)
心拍出量モニター
連続的動脈血液ガスモニター(パラトレンド)
が必要となる。前日に手術室に運んでおく
麻酔導入
■
肺高血圧症:平均肺動脈圧 > 30 mmHg
●
麻酔導入前に硬膜外カテーテルを第6-7胸椎間から挿入し、除痛範囲を確認する。
●
特にドレーン挿入部痛は呼吸と理学療法の大きな妨げとなり、胸骨上部のC 4からTh 9まで広範な除痛が必要である。
■
導入に使用する薬物
●
フェンタニール 2-3mg/kg
●
プロポフォール 1-2mg/kg
●
ベクロニウム 0.08mg/kg
麻酔維持
■
持続硬膜外麻酔+プロポフォールによる全身麻酔
●
速やかな、高い覚醒の質が得られる:吸入麻酔薬による覚醒時の興奮や錯乱を回避
●
術後の悪心・嘔吐の発現頻度が少ない
●
呼吸仕事量の増加を抑制し呼吸不全の発生を予防
●
十分な鎮痛を継続することが可能
■
人工呼吸器(PB7200によるPressure Controlled Ventilation)
●
FiO2 0.4-1.0
●
笑気は使用しない
■
使用薬物
●
プロポフォール 4-6mg/kg/h
●
ベクロニウム
■
硬膜外麻酔
●
0.125-0.25% マーカイン 4-6ml/h
●
フェンタニール 2mg/mlを併用
一側肺換気
■
左気管支用ダブルルーメンチューブ(ブロンコキャス
R
)を挿入。
■
直径3mmの気管支ファイバースコープで位置を確認する。
■
左右の換気を独立させることで術者は切除部位を直視下で観察判断できる。
■
Cooper法では仰臥位で胸骨正中切開を施行し、まず機能の良い一側を依存肺とし他側の切除を行い、次に逆を行う。
■
術中は、手術操作の中断を依頼し両肺換気に戻さなければならないことがしばしばある。
術中呼吸管理
■
陽圧呼吸による肺の機械的障害の危険
●
肺内には正常肺区域と異常(気腫性変化の強い)肺区域が混在
●
異常区域はコンプライアンスが高くエアトラッピングをきたしやすく、通常の換気圧や換気量ではこの異常肺区域をより早く大きく膨張(過膨脹)させる。
●
過膨脹は気腫を悪化し換気効率を下げエアリークの危険性を増大させ、肺微小血管内皮細胞の損傷などの肺障害を引き起こす。
■
controlled hypoventilation:permissive hypercapnea
●
1回換気量として両肺換気時は6-7ml/kg、片肺時は3-4ml/kgを目標値とする。
●
I:E比は1:3以上
●
PEEPは通常付加しない
■
術中の血液ガスの変動(連続的血液ガスモニターによる)
両側および一側肺換気中の血液ガスの1例である。短時間の片肺換気を繰り返し、過度の低酸素血症と高炭酸ガス血症を回避する。随時、術野の肺の拡張、虚脱状態を注意深く観察しながら用手換気を行う。肺の再拡張の際は通常より十分に時間をかけて拡張する。持続的動脈血ガスモニターは非常に有用である。連続モニターにより短時間の片肺換気を繰り返し、過度の高炭酸ガス血症と低酸素血症を回避するべく術者との連携が非常に重要である。
Permissive Hypercapneaの循環系に対する影響
■
細胞内pH低下による心筋収縮力抑制
●
交感神経遮断状態では心拍出量、血圧の低下
■
in vivo:迷走神経と交感神経の反応の差で作用が異なる
●
●
●
●
●
軽度高炭酸ガス血症→ 心拍数・心拍出量増加、SVR低下
冠血管拡張作用
不整脈の発生 (PaCO
2
> 80 mmHg)
血管収縮、肺血管抵抗上昇
酸素解離曲線右方移動
■
術中の血液ガスの変動(連続的血液ガスモニターによる)
術中循環管理
■
麻酔・硬膜外麻酔による循環虚脱を起こしやすい
●
●
●
術前より脱水・低栄養状態におかれている
肺気腫患者は静脈還流が阻害されやすい
晶質液投与を制限せざるをえない
■
手術操作 (肺靭帯切離) による著しい血圧低下や虚血の発生
■
高炭酸ガス血症による心機能低下、不整脈の発生
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潜在性の肺高血圧症の顕性化
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対策としては
●
●
●
手術操作に起因するものでは操作の中断を依頼
膠質輸液製剤の使用
昇圧剤(エフェドリン、ドパミン)
抜管
陽圧呼吸や気管内挿管は圧外傷や咳嗽によるエアリークを生じやすく、自発呼吸の再開を確認し麻酔がまだ深い時期に早期抜管を目指す。
■
早期抜管・自発呼吸を目標とした麻酔管理
●
●
適切な麻薬の使用
覚醒時に十分な除痛処
■
抜管前の気管支拡張療法(アミノフィリンの静注やサルブタモール・プロカテロール、抗コリン剤などの吸入)
■
加温加湿器やネブライザーを使用し、気道内の乾燥を避け気管分泌物の排泄促進と気管支拡張療法を施行する。
■
気管支ファイバースコープ
●
喀痰が粘稠で多量の場合には、深麻酔下でシングルルーメンチューブに入れ替え径の太い気管支ファイバーを用いて十分に気道内を吸引する。
■
呼吸再開後、PaCO
2
高値でも抜管
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自発咳や fighting の回避
●
●
咳によりエアリークの発生・増悪
深麻酔下で抜管、マスクにて気道確保
■
誤嚥を防止するため抜管前に胃内容を除去しておく
閉胸後は、自発呼吸の再開後PaCO2が高値(80-90 mmHg)でもほぼ最大値に達したと判断すれば抜管する。以後マスクで気道を確保し、PaCO2の低下を待つ。我々は、術直後に再手術を施行した1例を除き全例手術室で抜管し自発呼吸で管理している。抜管後高炭酸ガス血症は次第に改善してくる。
術後管理
呼吸管理
VRSが施行された患者は自力で喀痰を排出することが困難であり、術後は除痛と肺理学療法が重要である。
術後3時間より肺理学療法を開始する。
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肺理学療法
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吸入療法
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人工呼吸を必要とする場合
●
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Pressure Support Ventilation (PSV)
●
●
PSV レベルの決定
PEEPの設定
食道内圧測定による呼吸仕事量推察
■
気管切開
●
死腔量の減少効果と喀痰排泄に有利
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Tracheal Gas Insufflation
●
augment CO
2
excretion によるPaCO
2
の低下
疼痛管理
■
十分な鎮痛処置の必要性
●
●
●
●
痛みにより気道内分泌物の喀出困難
術後の1秒量 < 10 ml/kgと推測される
痛みによる換気量低下 → 低酸素血症、高炭酸ガス血症
痛みによる呼吸仕事量の増加 → 呼吸疲労・心負荷
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術中からの継続的な除痛対策
●
適切な麻薬の使用
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持続胸部硬膜外麻酔
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手術当日: 0.125-0.25% ブピバカイン 4-6 ml/hr 適宜フェンタニール 1-3 μg/ml 併用
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翌日以降: 0.125-0.25% ブピバカイン 4-6 ml/hr 適宜 追加投与
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座薬の併用
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Patient-Controlled Analgesia ( PCA )
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(C) 2007 Okayama University Graduate School of Medicine, Dentistry, and Pharmaceutical Sciences
Department of Anesthesiology and Resuscitology