岡﨑先生メルボルン留学報告です。

2020.10.07 お知らせ

留学報告

みなさま,こんにちは。平成19年岡山大学卒の岡﨑信樹と申します。職業は麻酔科医です。2018年9月から約2年間にわたり,メルボルン大学構内に所在する研究施設のFlorey(フローリー)に研究留学させて頂きました。COVID-19パンデミックにより最後の半年間はステイホームを余儀なくされましたが,その出来事も含め自分の人生にかけがえのない記録と記憶を刻む事ができました。留学報告として,第一章;Floreyでの研究活動報告,第二章;留学Q&Aの二部構成でお伝えさせて頂きます。

第一章;Floreyでの研究活動報告

Floreyでは羊モデルを用いて,敗血症や人工心肺などに関連する急性腎障害の研究を行っていました。大型動物である羊モデルのメリットは,生理パラメーターがヒトと近似しているため,ヒトとほぼ同様の正常生理,病態生理を生み出せるところにあります。

留学中はProfessor. Clive MayとDr. Yugeesh Lankadevaの2人の研究者に指導を仰ぎました。共にオーストラリア最高ランクのグラントを獲得し,毎年ハイインパクトジャーナルに業績を発表し続けている偉大な研究者です。サイエンスに関する底知れぬインプット量に加え,ある一つの生理現象にせまるアプローチやその奥行き,次から次へと生まれるアイデアにはいつも驚かされました。そしてCliveもYugeeshも優しい人でした。研究経験がなく英語力に難がある私に対しても周りと同じラボメンバーの一人として接してくれ,丁寧に時間をかけて様々な事を教えてくれました。研究デザイン創案から始まりプローベ留置などの手術手技,実験,データ解析,論文作成に至るまでの一連の過程を経験する中で,プロトコールに沿って研究を遂行する事の難しさ,得られるデータ一つ一つの重みを感じずにはいられませんでした。そしてFloreyメンバーの多大なるサポートにより研究結果を論文にする事ができました(Beneficial Effects of Vasopressin Compared with Norepinephrine on Renal Perfusion, Oxygenation, and Function in Experimental Septic Acute Kidney Injury; Crit Care Med. 2020 Oct;48(10):e951 -e958)。Floreyに在籍したという証を目に見える形で残す事ができ,この上ない喜びを感じています。

COVID-19に対してオーストラリアでは厳しい活動規制が敷かれたため,Floreyメンバーに直接会って感謝の気持ちを伝える事ができずに無念の帰国となってしまいました。またいつの日かプライベート旅行ではなく仕事でメルボルンへの切符を獲得し,お世話になったメンバーに会いに行きたいと思います。

第二章;留学Q&A

留学にまつわるエピソードをQ&A形式で述べていきたいと思います。

Q; なぜ留学する事になったのか?

A; 医師7年目頃に麻酔科専門医試験に向けて勉強をしていましたが,麻酔専門医になったら次は何か大きな事にチャレンジしたいと思うようになりました。専門医試験後新たな習慣を取り入れようと思い,麻酔・集中治療系の主要雑誌(Anesthesiology, BJA, ICM, CCMなど)を読み始めました。いざという時のために貯蓄も始めました。その4年後に大学院に入学しましたが,最初の教授面談の時に森松先生よりFloreyへの留学についてお話を頂きました。「これは自分が望む挑戦ではないのか」と思い,以前Floreyに留学されていた小坂順子先生から留学中のお話を伺い,その後留学の意志が固まりました。次の教授面談時にその意向をお伝えし,私以外に希望者がいなかったこともありスムーズに事は運び,1年後にはメルボルンの地に立っていました。

Q; 留学中の良かったと思う行動は?

A; 英語のやりとりには苦労しましたが,熱意は伝え続けました。「日本では業績が全くないから,オーストラリアで何としてでも結果を出したい」と1年半訴えました。当然態度でも示さないといけないので,ラボワークには真摯に取り組みました。決して楽な道のりではありませんでしたが,なんとか論文を残す事が出来ました。

Q; 留学中の反省すべき行動は?

A; 英語コミュニケーションが難しかったのに加え,私の内向型気質が災いして,他のグループの研究者とほとんど話さなかった事です。私のグループメンバーからも「なぜ話さないのか,英語上達のためにはたくさんの人と話すべきだよ」とたびたび指摘を受けましたが,「明日トライしてみるよ」と言って気づいた時には留学生活が終了していました。おかげで英会話スキルはあまり上達せず,正直なところ留学した事を疑われかねないレベルであり,今後の活動を考えると強い危機感を抱くばかりです。

Q; 留学中に嬉しかった事は?

A; 羊モデルの研究は常に大がかりのため,実験が無事終了しデータが得られた時は純粋に嬉しさがこみ上げてきました。データの入ったUSBをパソコンに差し込みデータ解析を始める瞬間はまさに至福の時でした。プライベートではサッカーの本田圭佑選手を生で見た時は感激しました。練習後には子供達にとても優しくファンサービスして下さいました。メディアでの印象とは全く異なり,そのギャップに家族全員ファンになりました。SNSはいっさいやりませんが,本田選手のツイートだけは毎日欠かさずチェックしています。

Q; 留学中に辛かった事は?

A; 実験に先立って手術手技を行う必要がありますが,私は主に肺動脈にプローベを留置する手術を担当していました。手先があまり器用ではないので手技を習得するのにかなりの時間を要しましたが,やっとの思いで留置したプローベを後日羊に噛みちぎられた時はかなりショックでした。羊は草しか食べないと思い込んでいたのが大誤算でした。また留学9ヶ月目頃に引越しを余儀なくされた時には,連日の英語での手続きに疲弊し,研究する気力が完全になくなりました。引っ越しのための作業に取り掛かってから新居での生活がスタートするまでに1ヶ月,その後気力が戻るまでに1ヶ月の計2ヶ月間は研究活動を離れていました。今思えばあの時無理をせずしっかり休む判断をしたのは,留学最大のファインプレーだったと思います。

Q; 今後について?

A; Floreyから病態生理に迫る基礎研究のおもしろさを学びました。今後自分をとりまく環境がどのように変わったとしても,研究の道は追い続けたいと思います。また留学により臨床での見え方が留学前と留学後でどう変わったかはしっかり記録していこうと思っています。この具体的な変化を伝えることは,将来留学を考えられている先生方の一つの判断材料になるのではないかと思います。

 

留学報告は以上です。最後になりましたが,森松教授,小坂順子先生をはじめ岡山大学麻酔科の先生方には留学前から留学後の現在に至るまで,多大なるお力添えを頂き心より感謝申し上げます。今後は患者さんのため,チームのために自分がやるべき事に対して誠心誠意取り組んでいきたいと思います。